モノを大量に消費することを是とする社会から、心を充足させることに価値をおく社会へ―。私たち日本人は、価値観の転換を求められているのではないでしょうか。
国家間、民族間の紛争をはじめ、エネルギー、食料、環境など、世界には難題が山積しています。国内に目を向けても同様です。人類が過去に体験したことがないほどのスピードで進行する少子高齢化によって、日本は想像を絶するような変化に直面することとなるでしょう。
閉塞感がつのる現代において、心の平静を保つために有効なのは、原始の感覚を取り戻すことではないでしょうか。今のように「なんでもある時代」とは比べるべくもないほど「なにもなかった」縄文時代、私たちの祖先は装飾的な土器をはじめ、美しいものを創り続け、大切に使ってきました。美しいものに接することは、腹を満たすことと同じくらい大切なことだということを、当時の人たちが信じていたからにほかなりません。生きていくうえで必ずしも不可欠ではない美術品や工藝品が、世界中いたるところで重宝されてきたという人類史を概観しても、そのことが証明されています。
人が精魂込めて創った美しいものが、人を幸せにする。これは万古不易の真理です。
私は、それらの作品を生み出す力を「伎」と呼んでいます。独自の感性や技術はもちろん、創り手の人間性をも包含したもの、それが伎です。
作品の創り手、作品を求めて愛でる受け手、そして両者をつなぐ人すべてが「美し人」です。
一般社団法人 日本美術工藝協会 理事長
鳥毛 逸平