立振舞
2023年3月31日
美しいことば、というより、美しい所作、と言ったほうがいいでしょうか。「立振舞(たちふるまい)」、あるいは「立居振舞」。この言葉には、どうしても「美しさ」が付きまとうような気がします。それもそのはず。出どころは、能楽の心得を記した世阿弥の『風姿花伝』、「老人」の演技を記したものでした。
「老人の物まね、この道の大事なり。能の位、やがてよそ目にあらはるる事なれば、これ第一の大事なり。およそ能をよきほどきはめたる仕手も、老いたる姿は得ぬ人多し。……冠 直衣 烏帽子 かり絹の老人の姿、人体だけからでは賤なり、相応すべからず。稽古の劫入りて、位のぼらでは似合ふべからず。
また花なくはおもしろきことあるまじ。およそ老人のたちふるまひ老いぬればとて腰膝をかがめ身をつむれば花失せて古様に見ゆるなり。
……ただ大方いかにもいかにもそぞろにて、しとやかにたちふるまふべし。 殊更老人の舞かかり無上の大事なり。……」
ただ老人に似せただけの演技では、本当の老人の姿には程遠い。老人の立ち振る舞いの美しさは、内面から滲み出るもの。そのためには、ひたすらに学ぶべし。老い木に花の咲かんがごとし、たた一心に学び続けよ。と、世阿弥は言います。
ほんとうの美しさは滲み出るもの。立ち振る舞いとは、人生そのものなんですね。折を見て、ひとつひとつの立ち振る舞いを見直したいものです。
(230331 第124回)