秋麗
2022年10月30日
うららかな秋、「秋麗」は「しゅうれい」とも読みますが、もうひとつの読み名「あきうらら」のほうが、なんとなく秋の風情を感じませんか。突きぬけるように青く晴れわたった秋晴れの空、黄金色の秋陽にかがやくとりどりの花葉。すべてのものがくっきりと輪郭を描きながらも、やわらかな陽射しにきらめくのどかな秋は、「うるわしい」という言葉がぴったり。空気や風も清らかに透きとおり、あらゆるものの内に入り込んで、そのものがもつ色を内がわから輝かせるような気がします。
―― みどりなる ひとつ草とぞ 春は見し 秋はいろいろの花のぞありける(『古今和歌集』よみ人しらず)
だれが詠んだのか、物哀しい秋を歌うひとの多い平安の時代にも、「秋は秋のよさがある」と歌うひとがいたようです。春には緑一色、ただひと色に見えた草が、秋になって色とりどりの花を咲かせたと。
春に咲く花もあれば、秋に咲く花もある。いつ咲くのかわからないからおもしろい。しかも、どの花もやがては散ってゆく。散りゆくまえに、かがやく瞬間を見せてくれることも。
―― 風ふけば 落つるもみぢ葉 水きよみ 散らぬかげさへ 底に見えつつ(『古今和歌集』凡河内 躬恒)
花もいろいろなら、人生もいろいろ。風が吹いて散った紅葉も、やがては散ってゆく枝の紅葉も、うららかな秋の陽に透きとおる水の底では、美しい生命の輝きだけが映し出されるのかもしれません。
(221030 第121回)