あっぱれ
2022年6月25日
時代劇や舞台劇、歴史小説などでおなじみの「あっぱれ」は、感動をひとことであらわした言葉です。「すばらしい」「おみごと」「立派だ」と、相手を称賛するときに使われます。
漢字にすると「天晴(れ)」ですが、これは宛字。見事なようすを「天下晴れて第一」とみて宛てがわれました。
語源は「もののあわれ」で知られる「あわれ」。しみじみともの哀しいイメージのある言葉がなぜ「天晴れ」に? と思うでしょうが、「あわれ」という言葉は人の感情表現ですから、この場合は喜怒哀楽の「喜」と「楽」のポジティブな方で使われたというわけです。
「あっぱれ」と言えば、東日本大震災で津波に遭いながらも唯一生き残った岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」でしょうか。現在は海水による枯死からその一部を残してモニュメントとして保存されていますが、一本松が希望の象徴であることには変わりありません。
怒りや哀しみ、喜び、楽しみ、すべての「あわれ」を体現する一本松。その泰然とした姿は、まさにあっぱれ! すがすがしい風が心を吹き抜けてゆきます。『万葉集』にある歌のように。
―― ひとつ松 幾代か経ぬる 吹く風の 声の清きは 年深みかも (万葉集六・一〇四二・市原主)
(一本松はどれほどの時を経てきたのだろう。梢を吹く風の音が清らかなのは、歳月を深く重ねてきたからだろうか)
一本松にはもう根っこはありません。それでも、過去をなぐさめ、未来に希望をあたえる晴れやかな勇姿は、これからも人びとの心をとらえ、その胸に深く根づいてゆくはずです。
(220625 第112回)