薫風
2022年5月8日
文字からも、みずみずしい若葉の香りがただよってきそうな「薫風(くんぷう)」。新緑の季節にぴったりな言葉です。春風がピンク色なら、夏の風はみどり色でしょうか。風にゆれる緑葉はまだやわらかく、運ばれてくる香りも色も若々しい青年のよう。ふと、昭和をかけぬけた奇才の詩人、寺山修司がうかびました。彼の詩の一節に、薫風を感じたのです。
―― 二十才 僕は五月に誕生した
僕は木の葉をふみ若い樹木たちをよんでみる
いまこそ時 僕は僕の季節の入り口で
はにかみながら鳥たちへ
手をあげてみる
二十才 僕は五月に誕生した (「五月の詩」より)
きらめく季節のなかを颯爽とあるく青年たちは、社会に新しい風を送りこむ薫風そのもの。春に芽吹いた若葉が日ごとに成長してゆくように、新しい世界にとまどいながらも、みずみずしい思考と発想で、柔軟に世間をわたりあるいてゆくことでしょう。
「たれでもその歌をうたえる」と言い遺して、五月の薫る風になった寺山修司のように。
―― たれでもその歌をうたえる
それは五月のうた
ぼくも知らない ぼくたちの
新しい光の季節のうた (三つのソネット「少女に」より)
(220508 第108回)