まろうど
2020年1月30日
「客人」と書いて「まろうど」。古くは「まろうと」といい、「稀人(まれびと)」が変化した言葉だそう。「稀におとづれる人」「めずらしい人」という意味で使われており、日本人に「おもてなし」の心が根付いたのも、これが理由のひとつかもしれません。
日本書紀の一節にも「高麗のまらひとを朝に饗へたまふ」とあるように、めったに来ない客人をもてなすのは、今も昔もおなじ……。
かと思いきや、もてなされて当然であるはずの客人を「にくきもの」としたツワモノがいました。清少納言です。
―― にくきもの いそぐ事あるをりに来て、長言するまらうど。あなづりやすき人ならば、「後に」とてもやりつべけれど、心はづかしき人、いとにくくむつかし。
急いでいる時にやってきて長話をする客人ほど憎らしいものはないと、辛辣に言い放ちます。
「あとでね」と言える相手ならまだしも、とりわけ立派な人であれば憎さもひとしお、厄介でしかたないわ、と。
民族学者の折口信夫の説によると、「まろうど」は「神」。常世の国から時をさだめて来る霊的な神の存在が客人であったようですが、この世においては客も人。客人とて無礼であれば、いつしか招かれざる客になるやもしれません。
松尾芭蕉は謳っています。
―― 月日は百代の過客にして、行きかふ人も又旅人なり
過ぎゆく月日は旅人であり、人もまた同じ時を生きる旅客。
この広い世界でめぐりあった「まろうど」同士、敬意をもって一期一会の時間を大切に味わいたいですね。
(200130 第65回)