玉章
2019年10月24日
―― 秋風に 初雁がねぞ 聞こゆるな
たがたまづさを かけてきつらむ
古今和歌集の選者の一人、紀友則の歌です。このときの「たまづさ」が「玉章」。手紙のことです。
冬を運んでくる雁の声が秋風にのって聞こえてきたことに、思い人の訪れを重ねたのでしょうか。雁は誰の便りをもってきたのかと、待ちわびる紀友則の胸の高鳴りが聞こえてきそうです。
玉章は玉梓とも書き、かつて便りを伝える人が梓の杖を持っていたことから、使者や使いという意味もあるそうです。
また、種子が結び文のかたちに似ていることで、カラスウリの別名としても知られています。
たくさんの結び文を抱えたカラスウリも、秋風に聞こえる雁と同じように誰かからの使いだとしたら…。赤く色づいた実が、情熱的な恋文であることを知らせているかのようです。
移ろいゆく季節はもしかすると、生き物たちからの玉章の返事なのかもしれませんね。
ちなみに、カラスウリの種は打ち出の小槌にも似ているため、財布の中に入れておくとお金が貯まるそうですよ。
(191024 第55回)