悠久の時をガラスに封じ込める
先人たちの思いを未来へつなぐ
ガラス作家
有永浩太
ARINAGA Kota
考古学者に憧れ、古代のガラスと出会う
石川県能登島。大阪出身の有永浩太が、この島にガラス製作の拠点として移り住むことになったのは、画家の叔母が残した古い家があったからだ。
「叔母は若い頃シルクロードの随行画家をしていていたんです。中学生くらいの頃は、祖母の家でその時の絵をよく見ていました」
両親が共働きだった有永は学校から帰ると、ほとんどの時間を本屋を営んでいた祖母の家で過ごしていた。
「両親は小学校の教員でしたが『好きなことをすればいい』という感じでした。小学校で他の子供たちを教えるのが大変だったからでしょうね。(笑)」
一方、祖母は孫を学者にしたかったようだ。夫はエンジニア、先祖には学者もいた。彼らの血を受け継いだ孫の浩太にも、そんな風になってほしいと願っていた。しかし、有永に祖父の記憶はない。ましてや先祖のことは立派な人がいたというだけのこと。それでも血は争えないのか、有永は何かを調べたり、ひとつのことにじっくり取り組むことが好きだった。
「いっときは考古学者を目指していたこともありました。実家がある堺の町は古墳だらけで、高校生の頃は発掘のアルバイトもしたことがあります」
有永がガラスに興味を持ったのも古墳でのことだった。
「小学生のときに藤ノ木古墳に行ったんですよ。国葬品がとてもきれいでした。ちょうどそのとき国葬品が再現されていて、当時の手法でガラスのビーズをそこで作っていたんです」
思えばこの邂逅が、有永と古代のガラス職人とをつなぐ糸の結び目だったのかもしれない。
(写真『gaze 黄』)
ヴェネチアン・グラスの代表ともいえるレース・グラスの伝統技法をアレンジし、オリジナルの技法で創作するガラス作家の有永浩太さん。布をテーマに展開する作品に『gaze』と名付けたのは、ガラスとの不思議な繋がりがあったからだといいます。透明なガラスの中にはどんなドラマが織り込まているのでしょうか。