生命の輝きを一刀に込める
木や石に潜む、光を削りだす
彫刻家
岸野承
KISHINO Sho
人の心に寄り添う作品を生む彫刻家、岸野承さん。古材や石のかたちを生かしながら、羅漢像や仏像、鳥や母子像などを削り出すためには、我を消して相手に合わせていく必要があるといいます。慈愛に満ちた作品が生まれる背景には、どんなストーリーがあるのでしょうか。
ともし火の彫刻
それはまるで闇に浮かびあがる燈明だった。真っ黒な背景に、黙念と佇む僧侶の彫刻が数体、ぼんやりと映し出されていた。目を伏せて微笑む顔は何かを語りかけているようにも見える。
あるギャラリーから送られてきた、彫刻家・岸野承の個展の開催を知らせるリーフレットである。
―― 若き日、ジャコメッティに響鳴。存在の部分や輪郭を打ち消し、真髄だけが残る彫刻に影響される一方、禅寺に通い仏教や禅の経験をする中で、今に至る岸野承の造形が生まれてきたようです。
と、紹介文にある。なるほど木僧が燈明に見えたのは気のせいではなかったようだ。古来の仏師たちがそうであるように、岸野の彫刻にも、どこか人の心を救うような祈りを感じるのである。暗闇のなかに灯された光は人心に宿る真人、仏性であると、木僧は伝えているのだろうか。
ギャラリーのオーナーが岸野の作品と出会ったのは2011年3月11日。日本を震撼させた東日本大震災の直後。彼女は自身のギャラリーからほど近い地下にあるギャラリーへ、何かに誘われるように足を運んだ。そこで目にしたのが岸野の彫刻だった。坐禅を組む木彫りの僧侶や仏像は慈愛に満ち溢れ、未曾有の大惨事のニュースで怯えていた彼女の心を慰め、深い悲しみから救ったのだという。
リーフレットに映る黒袈裟の僧侶は、そのときを物語るように、ともし火となって暗闇を照らしていた。
(作品『羅漢(宝林寺・樫)』)