令和の花鳥画は豊穣でシンプル、クールであったかい
日本画のど真ん中で勝負する、現代の絵師
日本画家
中野大輔
NAKANO Daisuke
令和の時代に生きた証
これから、中野大輔はどこへ向かうのだろうか。
「銀箔の空間がべつのものに見える構図に挑んでいます。いろいろ試していますが、うまくいったら大きい作品にします。混色の仕方にも工夫の余地があります。絵の具を混ぜてもいいし、あるいは画面上でセロハンを重ねるように混ぜてもいい」
中野の花鳥画は、伝統的なそれと比べ、余白が少ないが、その分、射程の長い奥行きを求めていることはすでに書いたとおりだ。
「モチーフの間にある銀箔の空間が、ずっと向こうまで続いているかのような、奥行きの深い空間も描いてみたい。若い頃、風景を丹念に写そうと思い、鎮守の森をデッサンしたことがあります。生い茂る葉っぱをかなり緻密に描いたのですが、その隙間から覗く空間が、ずっと向こうまで抜けて見えました。フォーカスが絞られると、覗き穴っぽくなるんですよね。ほんのわずかな余白が、思いのほか遠くまで抜けていく。日本画は平面処理に適しているのですが、奥行きを表現することもできます。描いている部分と描かれていない部分の関係性に緊張感をもたせることができれば、さまざまな表現ができます」
日本画は具象画でありながら、意匠のようでもある。そのため、取捨選択を厳しく問われる芸術でもある。構成の段階でよけいなものはどんどん省き、同時に主役の活かし方を考える。
花鳥画であるからには、組み合わせの妙を追求することも重要だろう。菱田春草が描いた黒猫と柏の木の組み合わせが、いつまでも脳裏に刻まれているように。
「ときどき、20代のときに描いた絵を見ることがあります。熱意、がむしゃらさ、無鉄砲さ……。けっして上手くはないけれど、今となっては描けない要素もあることに気づくんです」
人は、なにかを得たら、なにかを失う。真に成長するとは、成長する過程で失ってきたものを怜悧に理解するということではないか。そのうえで、新たな頂きに向かってしゃにむに前進できる人が、新たな地平を拓くことができる。
「日本画ならではの特徴を活かし、今の時代の空気感を盛り込んでいきたい。僕は先人たちの業績をリスペクトしていますが、令和の時代に生きて、令和の時代に制作したという空気を作品に盛り込みたいと思っています」
中野大輔の未来は拓けている。(右上作品『明けの雪』)
(取材・原稿/髙久 多美男)
いま、もっとも注目される日本画家のひとり、中野大輔さん。伝統的な花鳥画を題材にしながら、現代の息吹を感じさせる本格派です。
中野さん独自の技法や独自の創作観など、〝令和の絵師〟の本質に迫ります。