令和の花鳥画は豊穣でシンプル、クールであったかい
日本画のど真ん中で勝負する、現代の絵師
日本画家
中野大輔
NAKANO Daisuke
いま、もっとも注目される日本画家のひとり、中野大輔さん。伝統的な花鳥画を題材にしながら、現代の息吹を感じさせる本格派です。
中野さん独自の技法や独自の創作観など、〝令和の絵師〟の本質に迫ります。
日本画家としてのポジショニング
あるギャラリストは、中野大輔を「令和の絵師」と言った。また2019年、ニューヨークで彼の個展を見たドイツ人キュレーターは、「私が生きている間に、現代作家の美しい日本画を見ることができるなんて」と言って、涙を流したという。
そんなことを聞いていたからか、中野大輔という画家の根幹とはなんだろうと意識しながら話を聞いた。
はたと思い当たったのは、日本画家としての絶妙なポジショニングである。芸術をはじめ、ビジネスやスポーツなどどの世界に身をおいても、自身の立つポジショニング(位置取り)がきわめて重要であることは論をまたない。伝統ある日本画の世界であれば、なおのこと。
中野は、日本画のなかでも花鳥画という〝ど真ん中〟ともいえるテーマに挑んでいる。現代の若い画家のなかには、花鳥と工業製品を組み合わせたり、いにしえの時代と現代の風景を組み合わせるなど、新奇な作風を打ち立てている人もいるが、中野が選ぶモチーフはあくまでも自然界にある、花や鳥や虫や動物である。1974年生まれの画家にしては、意外なほど伝統的な手法やモチーフを踏襲している。かといって、古色蒼然とした印象はない。伝統を踏まえているのに、現代的な風通しの良さがある。
「僕が選んだ花鳥画は、これまでに多くの先人たちが挑んできた普遍的なテーマです。そもそも僕にはむちゃくちゃ新しいこと、それまでのものをひっくり返すようなことはできません。伝統に連なっていることに誇りを抱きつつ、令和に生きている日本画家として、自分にしかできない表現を求めていきたい」
彼は、アカデミックなエリート教育を受けたわけではない。むしろ、意匠・図案やテキスタイル、映像など純粋美術の周辺部がスタート地点だった。大きな組織にも属していない。後ろ盾をもたないがゆえに自由度が高いはずなのに、あえて日本画の核心ともいえる花鳥画に立ち位置を定め、なんら奇をてらうことなく一心に描き続ける姿は爽快ですらある。
画家として、自分が生きた時代の空気を作品に残さなかったとしたら、古式の焼き直しでしかない。かといって新奇なものが時間の風化に耐えてずっと残れるとは限らない。一本のポプラが生涯につくる種の数は約10億個もあるが、きちんと育つのはたった一本しかないという。画家によって産み落とされた芸術作品が、数十年・数百年と愛でられる確率も、それに近いくらい低いかもしれない。
日本画家としてど真ん中の立ち位置で、それに挑む中野大輔の本質に迫りたい。(下作品『ひかりさずかる』)