ガラスで表現する〝柔らかさ〟
本場ヴェネチアで開花したみずみずしい感性
ガラス作家
植木 寛子
Ueki Hiroko
ピノ・シニョレットとの別れを乗り越えて
2017年12月30日、師と仰ぎ、全幅の信頼を寄せていたピノ・シニョレットが死んだ。植木が結婚したとき、「ヒロコの子供が生まれるまでは死ねない」と言っていたが、それは叶わなかった。
「ピノが亡くなる直前、彼の孫であり後継者のマルティーノ・シニョレットとピノ監修のもと《クラゲ》シリーズの制作を始めました。これはガラスの塊で作り上げる《ヒロコガラス》としての新しい試みで、これに特殊な光を当てるというインスタレーションにも挑んでいます」
2020年、植木は作家20年を迎える。
「これまでゆっくり映画を観るというような余裕はありませんでした」と語る。
ずっと走り続けてきたのだろう。情熱的に、ポジティブに、理性的に。特定の画商をつけず、自分でファンを開拓していく流儀も、新しいスタイルである。
ガラスの靴、女神、ジャポニズム、クラゲ……。女性性に惹かれるという植木が選ぶテーマは、たしかに女性的である。
※作品写真・上から 「クラゲシリーズ」「座る女性」「天と地をつなぐ女神」「ふくろうシリーズ」、ガラスの靴 デッサン、「想像と理想の間」、ピノの工房にて、「雪の華」「目眩に似た恍惚感 楽しく泳ぐ事を覚えた瞬間」
(取材・原稿/髙久 多美男)
短大を卒業後、単身渡欧し、やがてヴェネチアを拠点に制作を始めたガラス作家・植木寛子さん。「女性的なものが好き」という言葉どおり、ハイヒール、女神、クラゲなど、彼女の生み出す造形と色彩は妖しいほどに女性的である。