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革と革にまつわるモノ

革を通して、世の中を考えてみる

「と革」ディレクター

髙見澤 篤

Takamisawa Atsushi

 

自分で選べるという強み

 髙見澤さんの革製品はどれもシンプルだが、冒頭にも書いたように、手間のかかるものもある。革の表情も独特で、一般受けするとは言い難い。それだけに、使い手を選ぶ。きちんと留め金をはずしてくれる人、穴が開いたり欠けたところも受け入れてくれる人、傷ついた革肌にも寄り添ってくれる人、継ぎ接ぎだらけのところがいいと手にとってくれる人など、モノが相手を選ぶのだ。そうやって旅立ったあとは、しっくりと相手の色に染まってゆく。

「僕は商品を作るとき、まずコンセプトから考えます。そして、それに合った材料を選ぶ。革もタンナーさんによって、なめし方が全然ちがいます。タンニンでなめすのか、クロームでなめすのかによってもちがってくる。全体の約70パーセントが短時間でできるクロームなめしです。タンニンなめしは時間とコストはかかりますが、味わいがでます。色も、革によって発色がちがいます。黒の染料をたくさん使うと革は硬くなるのです」

 独自の革製品を作るには、素材である革選びが最も重要になる。コンセプトに合った革を一般的な問屋で選ぶことはむずかしい。しかし、出会ったタンナーの担当者が営業ではなく開発者だったことで、髙見澤さんはオリジナルの革を手に入れるルートができた。どういうものを作りたいのか、そのためにはどういう革がいいのか、動物の種類によっても、育った環境によっても異なる皮をどうなめすのか、それらを細かく説明し、なめしてもらう。それができる革作家は、そう多くはないはずだ。

 自分で革を選べるということ。それが髙見澤さんの革製品の最も大きな強みだろう。独自の製品が作れるうえ、注文が入れば顧客の要望にも応えることができる。スタイリストだった頃のつながりで、世界的なロックグループ、ガンズ・アンド・ローゼーズの来日コンサートの衣装を作り続けて10年近くになる。ある著名人から鹿革のベストの注文もあった。革を知り尽くし、独自性を大切にする髙見澤さんだからこそできたことだろう。

 コンセプトからモノづくりに入るという髙見澤さんにとって、ストーリーは欠かせない。「ココロシリーズ」に物語があるように、素材の革にも物語がある。そのことを知ってもらいたい。この革は何の皮なのか、どこから来たのか、どんな環境で生まれ、どうやって育ったのか、なぜこのかたちになったのか。それを伝えるためには、作業をしているところや出来上がった商品を見てもらい、実感として味わってもらう場所が必要だった。

 2018年、革と革にまつわるモノを取り扱う店、「と革」をオープンさせた。

「皮が革製品になるまでにはたくさんのストーリーがあります。そのことにスポットを当てようと思いました」

 革が引き寄せた縁なのだろうか。店舗を構えた場所は、くしくも料理人が集まる東京都台東区かっぱ橋道具街からほど近い路地裏。番地は2丁目29番8号、「2(次)、29(肉)、8(屋)」と、食肉の残骸である皮につながるような語呂合わせになっている。

料理人が集まるかっぱ橋道具街からほど近い路地裏にある、小さなギャラリーショップ「と革」。店主でありディレクターの髙見澤篤さんが作る革製品は、害獣駆除などで捕獲された鹿や猪、熊などの革を使ったもので、ひとつひとつにコンセプトとドラマがある。本来であれば捨てられてしまう皮や角なども、命を余すところなく使いきってあげたいと「ジビエ革」と名付け、愛おしむように革製品を作り続ける。

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