革と革にまつわるモノ
革を通して、世の中を考えてみる
「と革」ディレクター
髙見澤 篤
Takamisawa Atsushi
革製品を通して世の中を考える
生き物へのまなざしに深い愛情が感じられる髙見澤さんの原点は、おそらく生まれ育った環境に起因している。日本アルプスをはじめとする急峻な山々に囲まれた、風光明媚な信州で思春期までを過ごしたことで、おのずと情操は育まれていったのだろう。やがて、ファッションに魅了され、高校を卒業すると東京のデザイン学校へ進学。それまでの環境とは一転、華やかな世界へ飛び込んだ。学生生活を送りながら、一方で、スタイリストのアシスタントも務めるようになった。
また、あることがきっかけで著名なファッションジャーナリストの手伝いをするようになり、ファッション漬けの毎日となった。その状況は卒業後もしばらくつづき、やがて独立。フリーのスタイリストとして動き始める。舞台衣装を手がけるなど、着々と活躍の場を広げていった。
潮の流れが変わり始めたのは2004年。下北沢の、ある店との出会いがきっかけだった。ふらりと店に立ち寄った髙見澤さんに、オーナーが声をかけてきた。
「そのバッグ、いいですね。どこで買ったのですか」
下げていたのは、学生の頃に作った革のショルダーバッグ。肩の部分が20センチほどの幅広で、袋部分もたっぷり入る大ぶりのバッグである。
「デザイン学生は荷物が多く、市販のバッグでは肩にショルダー部分が食い込んで痛い。だから、肩の部分が食い込まないバッグを作りました。当時のものをたまたま下げていったんです」
その場でオーナーから注文が入り、一週間後には店に並んだ。そして、すぐさま完売。追加注文が入り、評判は他店へと広がっていった。
2006年、パリの展示会に初めて出展し、思いもよらず高い評価を受け、ブランドの立ち上げを決意する。
ある日、納品に訪れた店でウィンドウに飾られていた自作のバッグを眺めていた髙見澤さんは、驚く光景を目にする。一人の女性が来店するなりバッグを手にして鏡の前に立つと、そのまま値段も見ずにレジへ向かったのだ。
「これって、ひとめぼれじゃないかって思いました」
ブランド名の「Six coup de foudre」。「ひとめぼれ」という言葉が脳裏にひらめいた瞬間だった。
「それまで革は問屋で仕入れていたのですが、海外から受注が入るようになり、安定して革を仕入れられる仕入れ先を探し始めました」
行き着いたのは、日本三大皮革産地のひとつである兵庫県姫路市。ある革製造メーカーのタンナーとの出会いによって、髙見澤さんの革製品作りは本格的に始動する。
料理人が集まるかっぱ橋道具街からほど近い路地裏にある、小さなギャラリーショップ「と革」。店主でありディレクターの髙見澤篤さんが作る革製品は、害獣駆除などで捕獲された鹿や猪、熊などの革を使ったもので、ひとつひとつにコンセプトとドラマがある。本来であれば捨てられてしまう皮や角なども、命を余すところなく使いきってあげたいと「ジビエ革」と名付け、愛おしむように革製品を作り続ける。