お花畑
2023年7月1日
「お花畑」とは、かわいらしい言葉ですね。バーネットの小説『秘密の花園』のように、女の子が花畑で遊ぶ姿が浮かびます。でも、ここで取り上げる「お花畑」は、それとはちょっと違います。これは高山植物の花野のことです。
夏、標高の高い山に積もった残雪が消えた後、高山植物がいっせいに花を咲かせます。その風景は荘厳で、この世のものとは思えない、まるで天上に広がる花畑のよう。厳しい環境にもかかわらず、健気に咲く可憐な花たち。その清浄な花々に出会った登山者たちが、感動と敬意を込めて、接頭語の「お(御)」を冠し「お花畑」と呼んだのでした。
もともと「御(オン・オ)」は「オホム」と呼び、「大(オホ)」の約音。平安時代には限られた語の上に付けられたようです。それが、オホミ→オホン→オン→オと次第に変化して、今では丁寧に言うときや、やわらかく言うときにも使われるようになりました。
お父さん、お母さん、お水、お空、お天道さま……。わたしたち日本人にとって、「お」を冠する言葉は特別。八百万の神々を崇める心がそうさせるのでしょうか。いいえ、どの民族もおなじ。美しいものや尊いものに触れ、感動に胸がふるえた時、人は自然に「おぉ…」と口漏れてしまいます。
―― 大空に 長き能登あり お花畑 (阿波野青畝)
想像してください。天空の厳しい場所に広がるお花畑を。そこから下界を見下ろせば、まるで神様の視点に立ったようではありませんか? 心も広く大きくなって、どんな悩みもちっぽけに思えてくるはずです。
(230701 第125回)