やんわり
2022年12月15日
他国語と日本語の大きなちがいといえば、漢字、カタカナ、ひらがな、ときにはローマ字と、文字の種類が多いことでしょうか。そのときどきで文字を使い分ける、世界でも稀にみる言語だと思います。
とりわけ「ひらがな」と「カタカナ」は、漢字から派生した万葉仮名。日本人の心を歌った『万葉集』から生まれた言葉だけに、人の心に寄りそう、やさしさが感じられます。
さらさらと水が流れ落ちるように歌を書く、筆の縦のラインのやわらかさもあるのでしょう。それが「ひらがな」ともなれば、おなじ意味でも言葉はやんわりとなり、描かれる文字さえも風にゆれる柳のような風情があります。
―― はなのいろは うつりにけりな いたづらに わがみよにふる ながめせしまに(小野小町)
こんな風に、花も人もその美しさは永遠ではないという切ない思いを、さりげなく伝えられるのも和歌の力であり、ひらがな特有のやんわりとした、あいまいな表現のなせるわざではないでしょうか。
ほのぼの、あやふや、ぼんやり、ひんやり、ちょこまか、よろよろ、にこにこ、もたもた、へなへな……。
こうやって擬音(態)語をならべてみると、世の中には、はっきりさせなくてもいいような物事が多いような気がします。ひらがなのような日本人が、そのことをやんわり伝えられたらいいですね。
(221215 第121回)