しじま
2019年6月17日
「夜のしじま」で知られる「しじま」。黙や静寂を意味します。音のない静かな様子を表す「しじま」ですが、なぜか芭蕉のあの歌を思い出します。
―― 古池や蛙飛びこむ水の音
水の音がするのに、なぜか静寂を感じさせる。しかも、芭蕉が見ている風景がそのまま映し出されて、まるでその場に居合わせているかのよう。
しんと静まり返った古池に、「ポチャン…」と静寂を破って水の中へ消えてゆくカエル。残された水と音の波紋だけが、カエルの存在を知らしめている。静かであればあるほど、音は響き渡ります。同様に、沈黙は雄弁に何かを語りかけてきます。
夜はその静けさゆえに五感を敏感にさせ、人の感情をむき出しにし、心の奥底に眠った言葉を引き出します。
日本画の余白も、音楽の音と音との間も、静寂で沈黙した無の世界なのに、そこはかとない美しい調べが隠されている。それゆえ、人は余白や間といった「しじま」に感じ入るのかもしれませんね。
ちなみに「音」は「言」の字源に由来しています。言は神への祈りであり、音は祈りに答えた神のお告げなのだとか。そのお告げは、夜のしじまにあるそうですよ。
(190617 第47回)