常世草
2018年12月4日
常世草(とこよのくさ)とは、橘(たちばな)のこと。
古代、黄泉の国(死者の国)や不老不死の国(蓬莱山、仙郷)として信じられていた常世の国には、時を選ばずいつまでも香り続ける果実、「非時香果(ときじくのかぐのこのみ)」という不老長寿の霊薬がありました。それが「橘」。
第11代垂仁天皇の命を受け、田道間守(たぢまもり)公が常世の国から持ち帰りました。一説には、田道間花(たぢまはな)がつまって「たちばな」になったとも。
しかし、公が持ち帰ったときには天皇はすでに崩御されており、不老長寿の果実も用をなさず、嘆き悲しんだ田道間守は墓前に献上したあと、その後を追うように命絶えたと言います。
田道間守の思いが実を結んだのか、花も実も香り高く、寒暖の別なく瑞々しい緑が美しく生え茂る橘は、長寿瑞祥の木、永遠に栄える木として家紋の図柄に使用されたり薬用としても重用されてゆきます。
― 五月待つ 花橘の香をかげば 昔の人の 袖の香をぞする(『古今和歌集』)
夏には小さな白い花をつけ、冬には黄色い果実をたわわに実らせ効用の時を知らせます。それも、自然の摂理のなせる技。花も実も、時節に合わせて栄えるのです。
かつては蜜柑全般を橘と言いましたが、本来、橘の果実は酸味が強くて食用には不向き。でも、香りを楽しんだり薬としては優れものです。
いろいろな柑橘がにぎわう冬。果実たちは、人間にも効用をもたらしながら種まきの準備をはじめるのでしょう。
自然の一部である人間にとって、季節のものをありがたくいただくことが、一番の不老長寿の霊薬なのかもしれませんね。
(20181204 第21回)